まずA点における鉛直全応力,間隙水圧,鉛直有効応力を求める.Rankine理論では
壁面の摩擦は考えないので,いわゆる水平地盤の土被り圧の計算でよい.これを下式に
示す.
次に,この土における主働土圧係数を求める.
したがって,A点における有効水平応力は鉛直応力に土圧係数を乗じたものなので,
となる.間隙水圧は,流体であるので圧力は全方向が等しい.したがって始めに計
算した間隙水圧 uw = 50 (kN/m2 である.
続いて,擁壁全体に作用する力Qを計算する.
まず有効土圧に関して計算を行う.これは水平応力分布が高さ 5 m,底辺が σ
ha'=13.33 (kN/m2) となる三角形分布をしているので,下式となる.
また,別途水圧が壁面に作用し,この圧力分布は底辺がやはり50
kN/m2の三角形分布である.よって
となる.したがって,壁面奥行き1m当りに作用する全土圧は有効土圧と水圧の和となり,次式で
示される.
なお,水の単位重量を与えなかったので,9.8 (kN/m3)で計算した場合, 水平有効応力は 13.67 (kN/m2),間隙水圧は 49 (kN/m2),全 土圧は 157 (kN/m) となる.この違いは特に本質的な問題ではなく,土の単位重量の精度を考慮すると水の単位重量を10(kN/m3)としても差し支えない.
上の計算結果を見てわかる通り,壁に作用する圧力は圧倒的に水圧が大きい.それ
は水平土圧が有効応力に依存する上に鉛直成分の3分の1程度であるのに対して,水圧は
鉛直も水平成分も大きさが同じからである.したがって水位が高いとその影響が非常に大きくなる.
このような擁壁を施工する場合,通常水抜穴が開けるよう指示されているが,これ
は背後の水位をなるべく下げて大きな水圧が作用するのを防ぐためである.機会があっ
たら是非実際の壁面の様子を見ていただきたい.
土圧計算についてもう一点補足すると,水平土圧の計算,すなわち主働,受働, 静止の各土圧係数に乗ずるのは鉛直有効応力に対してでなければならない.前述のように,水圧は等方的な圧力分布をするの で,全応力に土圧係数を乗ずるという計算は意味をなさない.