2002/11/25 出題分

解法の流れとしては,まず地下水位の低下前後における鉛直有効応力を求め,その増分Δpを得る。
続いてe-log p 関係からCcを用いて圧密による間隙比の減少分Δeを求める。
これと初期間隙比から圧縮ひずみ量が得られる。
以下に計算の流れを示す。

地下水位がA点にあるとき,およびB点にあるときの鉛直有効応力は下式から求まる。
有効応力計算
したがって地下水位低下による有効応力の増分は次の通りとなる。
有効応力増分

下図の e-log p の線形な関係から,間隙比増分 Δe は下式のように求められる。
間隙比増分

e-log p曲線

よって,地下水位がB点まで低下し圧密が完了したときの間隙比 eCB は,
圧密後の間隙比
となる。また鉛直ひずみは初期間隙比を用いて,
鉛直ひずみ量
となる。


Note 1

圧密は有効応力の増加によって生ずる

残念なことに,有効応力ではなく全応力の変動に基づいて沈下ひずみの計算を行っている解答が多かった。
この演習問題では,全応力は地下水位低下に伴い若干減少するので,
もしこれに基づいて計算してしまうと,沈下ではなくて膨張が生ずることになる。実現象と逆である。

Terzaghi は,有効応力の原理の第2項で次のように述べている。

All measurable effects of a change of stress, such as compression, distortion and a change of shearing resistance, are exclusively due to changes in the effective stesses.
各自でこの英文の意味を読みとってほしいが,要するに,有効応力が変化しなければ土はびくともしないということである。

専門書の圧密理論の記述において,有効応力であることを示す ' を付けないことが多いが,
これは有効応力で考えることが当然のものとしてあえて付さないのかもしれない。
この後学ぶせん断理論なども含めて,対象が有効応力で議論されているのか,それとも全応力を前提としているのか,
初学者は特に注意し,考えながら読み進めていってほしい。


Note 2

体積圧縮係数の扱い方には注意が必要である

圧縮指数Ccを用いて間隙比の減少量を計算する代わりに,
体積圧縮係数mv を求めて,それに有効応力増分を掛けることで直接鉛直ひずみを計算する方法もある。
しかしここで問題が生ずる。

多くの学生はmv を初期条件(p0 , ε0)より求めているが,ε-p 関係は非線型であり,
mvはあくまでもその点での接線であるため,
(p0 , ε0)を基準とした計算では下図のように本来の鉛直ひずみ量より大きく見積もってしまう。
有効応力の増加が大きいほど誤差は大きくなる。

これに対してe-log p 関係はほぼ線形と仮定して良いので,
Ccから求める方法はそのような誤差は生じにくい。

ε-p曲線

では,mv を用いた最終沈下量の計算,S0=mvΔpH も同様に沈下量を大きく見積もってしまう恐れが
あるのではないかという疑問が出てくる。それを避けるため,ここでは初期条件でのmv ではなく,
鉛直有効応力がpからp+Δpの間の平均的なmv を圧密試験のデータから読み取って用いることで近似値を得るものと考えてほしい。
また,有効応力増分Δpが小さければ誤差は小さくなるので, 小さな荷重ステップごとに分割して計算し総和をとる方法もある。
しかし実務で用いられている,たとえば「道路橋示方書」や「建築基礎構造設計指針」では,
圧縮指数 Cc による沈下量計算(正規圧密粘土の場合)が用いられている。


補筆

この事例では2%近いひずみ量となった。
もし粘土層の厚さが10mとすれば,約20cmも沈下することになる。

実際に地下水位低下による圧密沈下(地盤沈下)は大きな社会問題となってきた。
明治以降の近代化の過程において,特に戦後の高度成長期に産業用水として地下水を大量に汲み上げたため,東京を始めとして大都市の沖積低地で大きな沈下を生じ,標高が海面より低いゼロメートル地帯が広がった。
特異な例として,新潟市周辺では,水溶性天然ガスの採掘により水位低下を生じ,地盤沈下を起こしている。ここでもゼロメートル地帯が発生している。
最近大きな地盤沈下を生じている例としては,県内の南魚沼郡六日町や上越市周辺で消雪用地下水の汲み上げによるものがある。1年間の沈下量としては近年常に全国トップクラスにランキングされている状況である。
いずれも原因は明確なので,地下水の汲上げを規制することによって沈下の抑制を図るしかない。

さて,マスコミ的にはしばしば地盤中の水を汲み上げたためその分の沈下が起ったと説明されることがあるが,それでは十分ではない。工学的にはこの演習で学んだように,地下水位低下によって有効応力が増加したため圧密沈下が生じたという言い方が正確であろう。

なお,圧密沈下の原因は地下水位低下だけではない。地表面に建築物を建てたり,道路や堤防などの盛土を行うことによって地盤内の有効応力が増加して圧密が生ずる。私たち建設技術者にとってはこちらの方が一般的な問題である。
地下水位低下によるものが広域的なものであるのに対して,建設行為によるものはその応力増加の範囲が限定されるため,沈下は狭い範囲でしか起らない。しかし隣接する土地に大きな影響を及ぼすため,沈下の範囲を十分検討しなければならない。
沈下量は粘土層の厚さや圧縮性の不均衡,また構造物の荷重のバランスが異なることで場所によって変わってくる。その結果建築物や構造物が傾くことがあり,これを不等沈下という。世界遺産にもなったイタリアのピサの斜塔は不等沈下の事例としては最も有名である。


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